まるだし 2025年10月11日 0

痩せられない女 1

「……また振られたぁ。少しくらいふくよかな方が可愛いよって言ったくせに!!」
 ダンッと空になったグラスをテーブルに叩きつける。
「随分荒れているね。今回は、半年持ったじゃない。あ、焼酎ロックでお願いしまーす」
 荒れる女をあしらうように、彼女の友人はシレッと店員に追加の酒を注文していた。
「それで、今回はどんな女に寝取られたのさ?」
「……総務課の童顔隠れ巨乳の新人ちゃん」
「パッとしない容姿だけど、あの子スタイル良いもんね。むっちりとしたメリハリのある体型に負けたかー。あんたも痩せて、肌を整えれば美人なのに勿体ない」
「本当にそう思ってる?」
 ジト目で睨む女に対し、友人は視線を気にする様子もなくグビグビと焼酎を一気に飲み干し、タンッとグラスをテーブルの上に置いた。
「高校からの腐れ縁で続いた親友の言葉を疑うの?」
「デブデブ言われ続けている私には、その言葉は届かないのさ。ビールおかわり!」
 グスグスと鼻を鳴らしながら鼻水をすする私に対し、親友はハァと大きなため息を吐いた。
 呪詛のような愚痴に、はいはいと御座なりに返される。
「ビールおかわりお待ち!」
 ことりとビールが運ばれ、ジョッキに手をかけて飲もうとすると止められた。
「飲むペース早いって。お水飲みな」
 サッとビールの入ったジョッキを抜き取られ、水の入ったグラスを渡される。
「ううっ……」
「あんた、ダイエット続かないよね。高いジムに通っても続かないし。痩せる気あんの?」
「あるに決まってるじゃん。意志薄弱なんだろうか……。何やっても続かないんだよね」
 ぷにりと贅肉をつまみながらハァァァァァァーと大きなため息を吐く。
 食事制限をしたり運動したりしても、長続きしない上にリバウンドでぶくぶく太り『ふくよかちゃん』ではなく『おでぶちゃん』に進化した。
「でも、おでぶちゃんなのに肌は綺麗なんだよね。食生活に問題はなさそうだけど、量が問題じゃない?」
「どうだろう?」
 SとはいわないがMサイズの服が着てみたい。
 今は、XXLしか入らない。制服も13号と特注させてしまった。
「なんで上手くいかないんだろうね? てか、浮気男への未練はないの?」
「それな! 私が知りたいよ。浮気男は、ダイエットが成功するならぶっちゃけどうでも良いわ」
 ハッと鼻を鳴らせば、
「普通は振った男を見返すためにダイエットに奮起して美しくなるのが王道の定番じゃないの?」
と返された。
「私にそんな根性はない!」
 そう切り替えしたら、残念なものを見るような目でみられた。解せぬ。
「私も効果的なダイエット方法を探してあげよう」
「ついでに付き合ってくれると嬉しい」
「そこまで求めないで欲しいな。私は、今の体型で満足しているし」
 太くもなく、かといって痩せているというほど細くもない親友の体型が羨ましい。
「意志薄弱な私のダイエットを後押ししてくれるようなアイテムが欲しい。切実に!!」
 そんな願望ダダ漏れの女の言葉は、後に訪れる不思議なカフェで叶うことになる。

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